東京高等裁判所 平成元年(け)6号 決定 1989年7月24日
主文
本件異議申立を棄却する。
理由
本件異議の趣意は、弁護人大倉忠夫、同笹隈みさ子、同青木孝が連名で提出した異議申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
論旨は、要するに、1弁護人らは、免訴事由とされた大赦令の無効を主張しており、大赦により公訴権が消滅したという点が誤認であれば、第一審の免訴判決もまた誤りということになるから、免訴事由の有無判断について審理を求める本件控訴については控訴の利益があり、控訴権は消滅しない。2本件は、免訴判決があったことが明白であっても、本件控訴の利益の有無については口頭弁論を開いて当事者の言い分を聴くまでもなく明白だとは到底いいえないから、公判を開いて審理すべきであって、刑訴法三八五条一項所定の各事由に該当しないのに、右条項を適用して決定により控訴棄却をした原裁判は違法であり、取り消されるべきである、というのである。
しかしながら、大赦を理由とする免訴の裁判は、被告人に対する公訴権が大赦という事後に生じた事情で消滅し、その存続を前提とする公訴事実の有無の判断ができなくなったとして、被告人を刑事裁判手続から解放するものであり、これによって被告人はもはや処罰されることがなくなるのであるから、被告人の主観的事情はともかく、客観的、法律的には、なんら被告人に対して不利益を与えるものでも、被告人の法益を剥奪するものでもなく、これ以上被告人を上訴制度により救済するに値する法的な利益は存しない。したがって、免訴の裁判に対し、被告人の側から、免訴事由である大赦令の無効を主張して実体審理の続行を求め、あるいは、無罪等の裁判を求めて、上訴の申立をするのは、上訴の利益を欠き、不適法というべきである。そして、このような上訴が不適法であることは、原決定引用の諸判例に徴し、最高裁判所の判例としても既に確立されたところと解されるのであって、所論のように平成元年政令第二七号による大赦の効力を争い、本件における免訴事由の有無等について控訴審の審理を求めようとしても、所詮許容される余地はないから、口頭弁論を開くまでもないということができる。したがって、本件控訴の申立は、そもそも控訴権が発生せず、それがないことが明らかな場合にされたものであるから、刑訴法三八五条一項に従い、決定をもって本件控訴を棄却した原裁判に所論の違法はなく、原決定は、正当としてこれを是認すべきものである。論旨は理由がない。
よって、同法四二八条三項、四二六条一項後段により本件異議申立を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 寺澤 榮 裁判官 朝岡智幸 裁判官 堀内信明)